羊たちの沈黙I

エピソード・ゼロが発表される前にPixivにあげたものを少し加筆修正したものです。そのうちエピソード・ゼロに合わせて多少お話を変えることがあるかもしれません。

黄金視点,原作準拠で矛盾の無いように物語の裏舞台と黄金の友情をいろいろ妄想して描けたら良いなと思っています。(でも原作には突っ込みどころが満載なので、どうしてもおかしな部分が出てしまうかとは思います。そこは敢えて無視の方向で… ^-^;)

サガの乱を羊視点で書いてみました。

原作より

  • ムウと老師は知り合い
  • 射手座の聖衣が加工を施されていた
  • ムウと老師が青銅を陰ながら援助
  • 先にペガサス座聖衣は貴鬼が運び、紫龍は棺桶に入れられて後からムウに運ばれた
  • 富士山麓から星矢たちをテレポートで助け、しばらく様子を見ていた
  • 12宮の戦い後、ムウだけ女神に自己紹介してない。実は知己?

等々

を反映させたつもりです。

書き始めてみたら、どんどん腹黒なお方になっていってしまった……。こんなはずでは……。

ムウ様って、シャカにはタメ口なのに、アルデバランとアイオリアにはタメに丁寧語が混じってたんですね(原作)。何か距離を感じます。

https://zodiac-knights-fan.club/novel/rebellion-of-saga/silence-2/ https://zodiac-knights-fan.club/novel/rebellion-of-saga/silence-3/
目次

本編

最後の黄金聖闘士が誕生し、公道十二星座の黄金聖闘士が全員揃った。全員揃うのは、前聖戦以来200年以上ぶりことである。そして栄誉ある黄金聖闘士の授与式には、天秤座を除く黄金聖闘士全員が招集され、皆で祝う習わしとなっている。

この時、師シオンと黄金の仲間たちと撮った記念写真は、ジャミールにある館のムウの部屋に大切に飾られている。

その写真を見ながら、ムウは13年前のことを時々思い出す。同い年の黄金たち、少し年上の黄金3人と、さらに年上でかなりお兄さんな黄金の2人。

その時の祝賀会はムウにとって、とても楽しい思い出になっている。黄道十二宮の黄金聖闘士全員がそろった時に取った写真だ。こんな日が再び訪れることを願っていても、それはもうかなわない夢である。

この写真の中のムウは、楽しそうに心から優雅に笑っている。今のムウは…、優雅と称されつつも作り笑いしかしていない。あの頃のような笑い方ができなくなったのはいつからだろうか、そんなことは自明だとムウは自問自答しては苦笑する。

ムウが聖域からの招集に応じたのは、この祝賀会から数か月後の、女神が降臨を祝う祝賀会が最後だろう。

シオンの言葉

ムウの師は先代牡羊座であり現教皇のシオンである。師は教皇の仕事を終えた後、ジャミールにまで飛んできてはムウに修行をつけていた。

それはムウが牡羊座の聖闘士となっても続いていた。修復と聖闘士としての鍛錬は厳しく、反抗することは絶対に許されなかった。反抗すれば、そこに優しさはあるとはいえ残虐な仕打ちが待っていた。そんな厳しい修行に幼いムウはよく耐えていた。厳しい修行は、この地で聖闘士として生きていくために必要なことでもある。

ムウ自らが聖域に行くことは殆どなく、招集を受けた時だけであった。それは聖域以外を修業地とする他の者も例外ではなかった。今のところ世界は平和であり、世界中に散らばる邪神を監視する役目もあったからである。

今も昔も、ムウはずっとジャミールを拠点として活動している。

ある時、シオンがムウに語ったことがある。

「ムウ、実はな、我らが女神が誕生されたのだ。幼いものが多いとはいえ、女神を護るべく黄金の十二人も揃った。それは、女神がご成長されて覚醒されるころ、聖戦が起こるということを意味している。私はもう長いこと生きた。頭も体もすっかり衰えてしまった。だから、次期教皇となる者を今しがた指名してきた。射手座のアイオロスだ。彼は仁智勇ともに優れた男で、澄み切った心と決して曲がることのない正義感、人望もある。次期聖戦がいつ勃発するのかは分からぬが、次期聖戦は彼に陣頭指揮を執ってもらうつもりだ。それでだな、ムウよ、お前はとても賢い子だ。牡羊座の黄金聖闘士として、女神と、そしてアイオロスをしっかり支えるのだぞ」

「はい、シオン様」

返事をしたものの、女神降臨の本当の理由をまだ理解してはいなかった。いまいち聖戦というものがピンとこなかった。

「近いうちに女神誕生を知らせ、しばらくして時を改めて次期教皇の任命を公布するつもりだ。ムウよ、我が後継者たる牡羊座の聖闘士として、頼んだぞ」

ムウはジャミールに暮らしながら、厳しくも優しい師が来るのを毎日待ちわび、修復と聖闘士の修行をする日々を続けていた。

13年前のあの日までは……。

13年前のあの日

あの日、シオンの小宇宙が聖域方面で消えたのを感じた。いくら待ってもシオンはジャミールに来ることはなかった。師の身にいったい何が起こったのか。テレパシーにも一切応答がない。

こんなことは初めてだった。幼いムウは不安と悲しみに今にも押しつぶされそうになっていた。

それを救ってくれたのは、師の親友であり前聖戦の生き残りである五老峰の老師からのテレパシーによる声掛けだった。老師から声をかけられたことにより、ムウは少し安心することができた。老師と話しているうちに,ムウ本来の度胸と機転の良さ、行動力が呼び戻された。

このままじっとしていては、何もしないでいては、何もわからない。何か行動を起こさなくては……。ムウは初めて自らの意志で、聖域に向かった。師の情報を集めるために……、師を探すために……。

師の身に何かが起こったのであれば、それはそのまま弟子であるムウにも危険が及ぶ可能性がある。ムウが教皇の弟子であることを知っている者は少ないと師は言っていたが、やはりその危険性に変わりはない。

聖域でムウは気配を消し、ひたすら情報を集めた。ムウにとって、雑兵相手に記憶を読み取ったり消したりすることなどは容易なことである。

分かったことは、聖域に居を構えているはず双子座の聖闘士を最近見かけなくなったということだけだった。ムウもそうであるが、聖闘士は必ずしも聖域に居を構えなくてはいけないということはない。それに任務で数か月不在ということもよくあること。

だから、その時は特に不思議なこととは思わなかった。行方不明だと騒ぎ出すのはもう少し経ってからのことだ。

聖域はいつも通り機能しており、教皇は依然としてそこに在った。教皇に謁見することは危険と感じられたので陰からそっと教皇を見るに過ぎなかった。そこにいた教皇の小宇宙は、師の小宇宙とは違っていた。

(教皇はいつの間にか何者かとすり替わっていて、シオン様の振りをしている……。シオン様はいったいどこに……)

教皇の弟子であるムウは気づくことが出来ても、普段教皇にお近づきになることが出来ない聖闘士や、小宇宙に目覚めていない雑兵たちがそのことに気付くはずもなかった。教皇は依然として今まで通りの教皇と思われていた。もしかしたら幻術といった精神技で周囲を洗脳して取り込んでしまっているのかもしれない。

ムウは師の身に何かが起こったらしいことは確認できたが、結局師がどうなってしまったのかは確認できないままであった。殺されてしまったのか、それともどこか幽閉されているだけで生きているのか、何も分からぬまま。

ムウは失意の中、白羊宮の陰にうずくまり、人知れず静かに泣いていた。

「シオン様、一体どこに行ってしまわれたのですか…ウウゥッ」

アイオロスが反逆?!?

誰かであえーーっ!アイオロスが反逆をこころみたあーーっ!

突如、静寂を破る事態が起こった。聖域全体が騒然とする。アイオロスが反逆を企て、女神を殺害しようとしたというのだ。ムウはアイオロスが女神を連れて聖域から逃亡する気配を感じた。

ムウは騒ぎの中に、どこか不自然さを感じずにはいられなかった。殺害しようとしたのなら、なぜ女神を連れ去る必要があるのか。その場で殺せば良いはずである。アイオロスは女神が殺害されようとしたところを、ひょっとしたら助け出したのではないか、殺されないために連れ去ったのではないかと考えた。

アイオロスは次期教皇に指名されるような男である。彼が女神を殺そうとすることなど、ムウにはとても考えられなかった。

「老師、教皇はシオン様ではなく、いつの間にか別人の小宇宙になっていました。その人物が何者なのか、シオン様がどうなってしまわれたのか、私には全く分かりません。聖域は今、アイオロスが女神を殺害しようとしたと騒いでおります。しかし、師が次期教皇に選んだアイオロスが女神を殺そうとしたとは到底考えられません。アイオロスが女神と共に聖域を脱出するのを感じました。アイオロスは女神を助け出そうとしているのではないか、女神を殺そうとしたのは教皇ではないのかと、私には思われます。私は、真相を確かめるためにも、アイオロスを追いかけます!」

「おおっ‼︎なんということ!分かった。ムウ、心して行け!頼んだぞ!お前だけが頼りだ!」

ムウはアイオロスを追いかけた。だが、ムウが追いついた時、アイオロスは赤ん坊の女神を護るように抱きかかえ、すでに息も絶え絶えの瀕死状態だった。

「ムウ……か。お前も女神を殺そうとした私を抹殺にきたのか」

「いいえ、私にはあなたが女神を抹殺どころか、必死に守っているようにしか見えません。何があったのか知りませんが、まずは傷の手当てを」

「ムウ、すまぬな。実は…、教皇が…、女神を殺そうとしていた所を…、お救いして来た」

「教皇が?!まさか?!」

「ああ、だが…、あの教皇は…、教皇の正体は…。くっ!」

アイオロスは教皇の正体を話そうとした時、気を失ってしまった。ムウはアイオロスの言葉を聞いて、泣きたくなった。教皇はやはりムウの知る師ではなく、何者かとすり替わっているようだった。だが今はそれを確証する術はない。

いくら黄金とはいえ、幼いムウが聖域に戻って教皇の正体を突き止めるには、あまりにも危険を伴う。

ムウは泣きながら、必死にアイオロスの傷の治癒を試みた。

鋭利な刃物で切られたような跡。シュラの技にやられたと思われた。アイオロスほどの男が、まだ10歳の子供であるシュラにやられるとは到底考えられない。アイオロスはきっと、女神を護ることを最優先とし、シュラの技をわざとその身に受けたのではないか。心優しいアイオロスは、同じ黄金の仲間であるシュラに拳を向けることが出来なかったのではないか。

ムウは傷の治癒をしながら、一体アイオロスの身に何が起こったのか、いろいろ想像した。

ムウの必死の治癒により、アイオロスは一旦意識を取り戻した。だが同時に、人の気配がした。一般人のようである。アイオロスはその人物を見るなり、何かを悟ったようだった。

「ムウ、しばらく隠れていてくれ。あの人物に……、女神を……、託す……」

「えっ?!?」

アイオロスが意図したことを、ムウはとっさに理解できず動揺した。それでもムウはアイオロスの指示に従い、物陰に隠れ、様子をうかがった。アイオロスが城戸光政に女神と射手座の聖衣と、勝利の女神ニケを託しているところを、ムウは物陰からじっと見守っていた。

アイオロスは光政翁に女神を託すと安心したのか、その場で静かに息を引き取り、帰らぬ人となってしまった。

アイオロスの話した内容はあまりにも衝撃的であり、俄かには信用しがたいものであるが、光政翁はアイオロスの言葉を信じてくれたようである。

いきなり初対面の瀕死状態の上半身裸の僅か14歳の少年を見て信用するとは、これもアイオロスの人徳のなせる業なのか、それとも光政翁に人を見る目があったのか。おそらくその両方なのだろう。

ひょっとしら、幻惑を使っていたのかも知れぬ。だがそれは今となってはわからない。

「おお神よ。この子と黄金聖衣を私にお預けになって、いったいどうしろとおっしゃるのですか。私に100人近い子供がいるということを知っていて、私に女神を託されたのでしょうか。まさか、私に100人の子を生贄として捧げろとおっしゃるのか……。神よ!」

ムウは一部始終を老師にテレパシーで送信した。光政翁は愕然としながらも、これを自分の運命として受け入れたようである。

女神の試練

「ムウ、泣くでない。これは天が女神に与えた試練じゃ。女神が本物であれば、真の女神の聖闘士を引き連れて必ずや聖域に戻る。アイオロスはきっとその光政翁に何かを感じたのじゃろう。それゆえ彼に女神を託したのじゃ」

「女神への……、試練……?」

「そうじゃ。これしきの事で聖域に潜む邪悪を倒すことが出来なければ、それは偽物の女神じゃ。アイオロスが救い出した赤ん坊が本物の女神だとわしも信じておるが、今は、女神が成長し、覚醒するまで我々は待つことしかできぬ」

「本当に、女神の成長を待つことしか我々には出来ないのでしょうか。シオン様が行方不明になり、シオン様が次期教皇に指名したアイオロスまでもが亡くなってしまいました。聖域に偽者の教皇がいると分かっているのに、私は何もせずにただ指をくわえて、時が来るのを待つことしかないのでしょうか。偽者と思われる教皇を、どうして討ってはならないのですか。そんなことって……、そんなことって……、私は悔しくてなりません。私だって、女神の聖闘士です

「ムウ、今は耐えるのじゃ。今は、光政翁に女神を立派に育てていただくために必要な援助を……、できる限りのことをするのじゃ。わしはこの五老峰を動くことは出来ぬ。今はお主だけが頼りじゃ。ムウも他の黄金たちも多くはまだ子供。聖域でお主のような子供についてくるような者はまだおるまい。教皇がすり替わっているらしいことを誰も気づいておらぬようなら尚更。今は辛抱するのじゃ。女神が成長される前に聖域の秩序を乱してはならん。今はひそかに鳴りを潜めておくのじゃ。今できることは、女神と射手座の聖衣を……、とにかく聖域から護ることじゃ。聖域から隠す必要がある。目をくらます必要が……」

「分かりました。私は、女神のために出来る限りのことを尽くします。私にできることを……、そうだ!私は射手座の聖衣に手を加え、偽物と思わせるように細工をします。時が訪れ、射手座の聖衣を纏う資格のあるものが現れた時、その者の小宇宙に反応して真の姿に戻れるような加工を施します。光政翁は恐らく聖闘士のことをよく知りません。光政翁が動きやすいように、聖闘士の知識を吹き込んでおこうと思います」

「うむ。それが良かろう。頼んだぞ。それと、このことは誰にも話すではないぞ。さっきも言ったように、これは女神に与えられた試練じゃ。まだ誰が味方で誰が敵かは分からぬ。誰が偽教皇に加担しているのかもわからぬ。たとえ親友であっても、女神が覚醒されて事が明らかになるまで、決して話すではないぞ。無駄な命を失わないためにも。よいな」

それ以来、ムウは自分の感情というものを、封印してしまったのかもしれない。

感情のままに行動してしまっては、物事の本質を見失う。感情を封印し、ただひたすら冷徹に物事を考え、行動することだけが許された。策謀家として必要な資質は、この時身についたのかもしれない。

大恩ある師は行方不明。次期教皇に指名されたアイオロスは死亡。アイオロスと同様に頼りにされるべき双子座の聖闘士は行方不明。

誰にも言えぬ秘密を抱え、その秘密を知る老師以外、誰にも頼らずに生きていかねばならない。

すべては女神のために……。女神が聖域に帰還する、その日まで。

ムウ,密かに動き回る

しばらくの間、ムウはジャミールと日本を往復した。

幻惑等を駆使して光政翁に接触し、射手座の聖衣を預かり、偽物っぽく加工した。加工後のデザインは、日本に行ったときに目を引いたガンプラを参考にした。勝利の女神ニケの像は黄金の杖に加工した。

聖衣に使用されている金属を加工するには、ジャミール族が持つ門外不出の技術が必要である。いくらグラード財団の持つ最新の技術でも不可能である。

今、その技術を持っている者はムウしかいない。故にムウは自ら出向いて加工することを申し出た。

ムウは加工を終えた聖衣と黄金の杖を、再び光政の下に届けた。光政翁は聖衣と黄金の杖を手持ちの骨董品等に紛れ込ませ、コレクションの一部としてカモフラージュさせた。

ムウは光政翁に接触するたびに、聖闘士の知識も与えていった。

聖闘士の存在は極一部の限られた人間にしか知られていない。文献にも殆ど存在しない。ムウは聖闘士とはどういう存在か、そして聖闘士になるためにはどうすればいいのかということを教えた。聖闘士になるための修業地を知りたそうなときは、聖闘士となるための修業地候補を与えた。

光政翁はそれらの情報を基に、極秘プロジェクトとして財団総力を挙げて調べ上げ、準備を進めていった。同時に、世界中に散らばる光政の子らをいったん孤児院に送り込んだ上で引き取って行った。自らの子供を聖闘士として女神に捧げるために、世界中の聖闘士の修業地へと子供たちを送り込んだ。

心の奥底では涙を流していただろう。果たして何人が生きて帰って来られるのか、出来れば全員生きて帰ってきて欲しいと願っていた違いない。

その中の一人が五老峰の老師の下へ弟子入りをした。ムウはその弟子と直接会ったことはなかったが、老師から弟子の成長話をよく聞かされていた。

世界中に送り込んだ子供たちの何人かが見事聖闘士となった場合、聖域と相対するためにどうすればいいのか、その作戦もムウが出した提案である。

聖域をおびき寄せるためのグラードコロッセオの建設となると、一大プロジェクトとなる。女神がまだ幼少で光政翁が健在の時に、そのプロジェクトは開始された。だが、そのプロジェクトが走り始めた頃、光政翁は亡くなってしまった。その後は執事の辰巳を介してプロジェクトは進められた。

ムウは、アイオロスが素晴らしい御仁に女神と聖衣を託したことに感心した。アイオロスの眼力に感心した。聖闘士の素質を持つ子供を数多く持ち、人望があり、財力もある。託した人物が光政翁であったからこそ、女神を護り、聖衣をカモフラージュさせ、聖闘士を育成し、グラードコロッセオ銀河戦争プロジェクトを行うことができた。

聖闘士が一般人に拳を向けることは原則禁止されているため、聖闘士ではなく一般人の中で女神をお育てすることは、女神を護ることにもつながっていた。

女神はその中で、何不自由なくスクスクと成長した。

成長とともに回数は減っていったが、定期的に女神の成長を陰から見守り続けることは、今もずっと続いている。

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