死を招き

エピソード・ゼロが発表された後に書き直しました。

黄金視点,原作準拠で矛盾の無いように物語の裏舞台と黄金の友情をいろいろ妄想して描けたら良いなと思っています。(でも原作には突っ込みどころが満載なので、どうしてもおかしな部分が出てしまうかとは思います。そこは敢えて無視の方向で… ^-^;)

サガの乱を,蟹視点で書いてみました。

目次

本編

デスマスクが聖闘士となるべく修行したシチリアは,マフィアが支配する社会だった。マフィアとは,外国人支配者に反抗して設立された住民たちの自治組織である。

デスマスクが聖闘士となるべく修行したシチリアは、マフィアが支配する社会だった。マフィアとは、外国人支配者に反抗して設立された住民たちの自治組織である。汚職にまみれた役人なんかより義理人情で市民を守るマフィアこそが、シチリアの人々にとって生活を守る信頼できる組織なのだ。麻薬やタバコ、酒の密造は一般的に違法なことだ。しかし、それはここに住む人々にとっては生活の手段であり、貴重な資金源である。この地域を支配するのは」と「」がすべてであるが、売春と賭博は「男」のすることして認められていないのでここでは行われていない。

マフィアは稼いだ金でこの貧しい地区に学校と病院を建てた。イタリア政府から見放されているような人々に社会福祉を与えているのもマフィアであり、この地に住む人々にとって尊敬すべき憧れの存在でもあった。

デスマスクの両親は、冤罪でイタリア政府に殺された。幼かったデスマスクは両親がイタリア政府に捕まる理由も、殺される理由も分からなかった。それに、助けるすべも仇を討つすべも持たなかった。幼かったデスマスクは両親の温もりも、顔ももはや覚えていない。だが幸せに暮らしています感覚だけが残っている。

デスマスクに代わり、マフィアが両親を殺した政府側の人間を暗殺してくれた。そのことはすぐに耳に入った。

マフィアは他にも、この地域で虐げられている人々のために力を用いて守ってくれた。
だから自分も、そんな弱者を守りために力を得たいと考えるようになったことは自然なことであった。

孤児となったデスマスクがどういういきさつで聖闘士になるべく修行に入ったのかはわからない。両親を失ってストリートチルドレンとなっているところを拾われたといったところだろう。

星の導きで、放浪しているところを師匠に出会ったのだ。

デスマスクは、マフィアが暗躍する世界のすぐ近くで聖闘士となった。世の中には、表の世界と裏の世界があるのだということは、当然のこととしていつの間にか理解していた。

愛する者を守るためには力が必要であり、大義を守るためには時に大きな犠牲を払う必要があるのだということも、当たり前のこととして育った。その時犠牲になった者たちに誠意を表すことも大切であることも、マフィアから学んだ。

デスマスクは、いつも自分を可愛がってくれているおじちゃんやおばちゃん、仲のいい友達を守るために、自分も当然のように力を求めた。苦しい修行にも耐えた。

幼く力のないデスマスクは自分の両親を守れなかった。だけど二度とそんな思いを他の子に味わってほしくない。そんな想いがデスマスクを聖闘士にした。

苦しい修行の果てに、相手を死にいざなう技を身に着けた。

この技を身につけるために、自らも生死の境を彷徨った。生死の境を彷徨ったとは言っても、意識ははっきりしている。黄泉比良坂だ。その後は現世と黄泉比良坂を自由に行き来できるようになった。敵を送り込むだけでなく、その場に敵を縛り付けることもできる。

俺は自由に行き来できるが、殆どの者は行き来することができない。一方通行の技だ。

積尸気冥界波は苦しむことなく相手を死に至らしめる技だ。

ミロのスカーレットニードルのように、苦しみ悶えながら死に至る技ではない。相手に穏やかな死をもたらす非常に慈悲深い技だ。相手の血を見ることもない。

巨蟹宮の死に顔は、積尸気冥界覇で死に追いやってしまった相手の死を弔うために巨蟹宮にデスマスクを置いたのが、そもそもの始まりだった

敵とはいえ、身元が分からず弔ってくれる者がいない者たちの魂を救うために始めたに過ぎなかった。俺の強さを証明するために始めたものではない、相手への敬意と思いやりだ。

そんな行動から、いつしかデスマスクと呼ばれるようになった。本名は忘れた。

そもそも黄金聖闘士たちは本名を捨て去っている者が多い。俗世間との関係を断ち、女神のためにその身を捧げるには、通り名の方が都合が良い。

そう師匠から聞かされている。

デスマスクの弱き者のささやかな日常を守りたいという思いが、デスマスクを聖闘士にさせた。弱き者を守り、秩序ある生活を守る想いが、聖衣にも伝わっていた。

力がなければ正義なんて貫けない。力がなければ弱き者を救えない。力こそが正義。

聖衣の考えとデスマスクの考えは同じだと、あの時までは信じていた。

アイオロスの謀反

アイオロスの事件が起こった時はデスマスクが10歳の時。

アイオロスの事件が起こる前に、双子座のサガの姿を見かけなくなった。アイオロスと並ぶ実力者。

あれほどの男が何の理由もなく姿を見せなくなったことなんて、俺にとってはどうでも良いこと。

「俺は利のあるところへつく。ただそれだけよ」

綺麗事ばかりの正義は正義ではなく、力を伴ってこそ正義となる。それはつまり、その時その場所で権力を握っているものにつくということである。

どちらが善でどちらが悪ということではない。力を持っている方が正義である。

いま、この聖域で権力を握っているのは教皇である。だから、俺が教皇側につくことは自然の流れであった。

誰かであえーーっ!アイオロスが反逆をこころみたあーーっ!

双子座のサガは行方不明。アフロディーテとシュラ以外の黄金聖闘士は、修行をやり直すとか言ってそれぞれ師匠の元へ帰っていった。

今この聖域にいるのは、俺と、アフロディーテとシュラのみ。教皇命令とあれば、どんな事であってもそれに従わなければならないのが我々聖闘士である。たとえそれが同じ黄金聖闘士のアイオロスであっても変わらぬ。

14歳のアイオロスと10歳の俺では、体格的に不利な状況であるとは間違いないが、聖闘士の戦いはより小宇宙を爆発させたほうが勝つ。それに、巨蟹宮まで降りてくるためにはアフロディーテの双魚宮とシュラの磨羯宮を通ってこなければならない。

この2人がアイオロスと戦うのならば、俺も戦わざるを得ないだろう。おそらく、この2人はアイオロスと戦う。俺のところまで来れたとしても、きっとアイオロスはボロボロさ。俺にも勝機は十分にあるさ。

予想通り、アイオロスの体はすでにボロボロだった。

「デス、ここは目をつぶって俺を通さぬか」

「通す?アテナを拉致ってるあなたをですか?まさかただで通ろうって気じゃないでしょうね。そりゃ、ムシが良すぎるわ」

俺は、態勢が有利な方につく。それが俺の処世術。

「ならば、交渉決裂だ。積尸気冥界波!!」

そのとき、赤ん坊のアテナが笑っているような気がした…。

次の瞬間、俺だけが黄泉比良坂に来ていて、アイオロスとアテナは来ていなかった。俺は初めてアテナの力というものを思い知った。まだ赤ん坊のアテナにだ。俺は一瞬、背筋が凍った。

しかし、ここで怯むわけにはいかない。十二宮を降りてきたシュラとアフロディーテと合流して、アイオロスを追いかけた。

アイオロスは聖域と俗世を結ぶ吊橋のたもとまで来ていた。

吊橋を渡すわけにはいかない。アイオロスは歳上で、皆から尊敬されていた実力もある黄金聖闘士だけど、もう、足元はフラフラ。アテナを奪い返し、アイオロスを倒してしまえば、形式上は丸く収まる。

俺は、目の前にいるアイオロスをどつき回した。直接攻撃はしていない。背中に背負っている聖衣箱を殴っているだけだ。手加減してやっていると言っても良い。俺だって、本音では、仲間であるアイオロスを殺したりしたくはないんだ。

粋がって見せてはいるけど、アイオロスがアテナをこちらに引き渡し、汚名を着せられたアイオロスだけを逃がすことだってできるんだ。

だが、アイオロスは赤ん坊のアテナを手放すことはしなかった。

おぼつかない足取りで吊橋を渡っていった。

すでにアイオロスの意識はなくなっているのに、無意識の状態でアテナを抱えて聖域を出ようとしていた。

俺はある種の恐ろしさを感じた。

アテナと、アイオロスに…。

シュラが吊橋の綱を切って、アテナとシュラは谷底へ落ちていった。だが、巨蟹宮で赤ん坊のアテナの力を見せつけられた俺は、アイオロスはわからないが少なくともアテナは生きているであろうと予感している。

アテナはアイオロスとともに死んだのだ…。それでいい、それで…。だがアテナは必ずや甦ってこられる。いつに日にか必ずこの聖域に…

シュラの言葉に、俺は言葉を失った。

道を間違えてしまったのか…?

いや、そんなことはない。今の聖域を支配しているのは教皇、それすなわち地上の支配者でもある。その時その場所の権力側につくのが俺のポリシーだ。

そうだ、俺は間違っていない。俺は今まで通り教皇に忠誠を誓うぜ。たとえ教皇の考えが昔の教皇とは違っているような気がしてもだ。

アイオロスとアテナを吊橋から落としたことは、教皇に伝えた。聖域にアテナはいないが、アテナがいるふりをすることは、いつしか俺たちの暗黙の了解となった。

それ以来、俺たちは教皇派として、反教皇派と言われる聖闘士たちを抹殺する役割を主に担うことになった。力で持って反勢力をねじ伏せていくのだ。

これは教皇にとって、俺たちは側近とも腹心とも言える立ち位置だ。まあ、悪くはない。時には相談も受けたりもする。見かけ上、サガとアイオロスがいなくなった聖域で、黄金聖闘士の中で一番年長者なのが俺たちなのだから、誰も不審に思うものもいなかった。

いつしか、アテナの存在など忘れ去り、敵対するものをどんどん粛清していった。

粛清をするうちに、殺した相手を弔っていたはずのデスマスクは、俺の強さを証明するものと変わっていき、成仏できないやつが巨蟹宮をさまようようになった。聖域の秩序を守るために行っている行為だ。

一見悪に見えるかもしれないが、秩序を守るためには力が必要なのだ。力がなくては正義を貫くことはできない。ゆえに力こそが正義だ。これは俺の信念でもある。

時は来た

極東の日本で、聖闘士同士を戦わせる銀河戦争なる大会が行われているらしい。あの時、アイオロスとともに消えたアテナが動き出したとも考えられなくもないが、今の所、あれはアテナを語る偽物であるとされている。聖域は今まで通り、教皇のもとで動いている。

だが、事態は聖域にとって不利な方向へと動いていた。

見世物をやめさせるために派遣した白銀聖闘士が、たった5人の青銅聖闘士たちに討ち取られたことを噂で聞いた。裏で老師とムウが動いているらしい噂もある。この2人は聖域のアイオロスの事件以降、聖域の度重なる招集に応じない者たちだ。

危機感を抱いた教皇は、ついに黄金聖闘士も派遣することにしたらしい。

今のうちに芽を摘んでおかなければ、俺の身も危なくなることは明らかだ。

「デスマスクよ、お前を呼んだのも他でもない、五老峰にいる老子を討伐してもらいたいのだ」

「教皇、正気ですか!?!前聖戦からの生き残りである老子を討伐してしまうと、あらぬ疑いをかけられますぜ」

俺が倒すのは青銅聖闘士たちばかりだと思っていたので、かなり意外だった。しかも前聖戦からの生き残りの老師とは…。

「しかし事態は我らにとって悪い方へと進展している。この先の女神神殿に女神がいないことを、アイオリアに知られてしまった。今あるこの秩序を維持できるのかどうか、もはや時間の問題だ。秩序を守るため、打てる手は全て打たねばならん」

「なるほど、そういうことか。じゃあ、ちょっくら行ってくらあ。老師が相手となっては、俺も無事ではすまされないかもしれんがな」

俺も無事ではすまないかもしれないのは、冗談抜きの本音だ。内心、かなり震えている。だが、俺は黄金聖闘士。震えてはいるが、強い敵と戦うことにワクワクしている自分がいる。

「無理そうなら素直に逃げ帰って来て良い」

「じゃあ、あまり期待せずに待っていてくれ」

五老峰へ

「フッ、このわしにまで刺客を差し向けるとは、教皇も余程焦ってきたとみえる」

さすがは老師、お見通しだ。教皇は、確かに焦っていた。しかしそんなことを顔に出すわけにも行かない。思うわけにもいかない。黄金聖闘士は、小宇宙で相手の考えをある程度はできてしまうのだから。

「老師、あなたに対して拳を向けることは恐れ多いが、これも勅命……。お命頂戴する」

老師に襲い掛かるデスマスクに、老師の弟子の紫龍が割って入り止める。

青銅のガキだと舐めてかかっていたが、思いのほか根性があって手こずらせやがる。なるほど、こいつに白銀聖闘士たちが倒されたのか。

青銅聖闘士と白銀聖闘士の間の実力差よりも、白銀聖闘士と黄金聖闘士の実力差は遥かに大きいのだ。こうなったら、本当の黄金の力というものを見せつけてやるぜ。

俺は真の黄金の小宇宙を燃やし始めた。

まずは邪魔なガキを消してやる。

「待ちなさい、デスマスク。青銅聖闘士を相手に黄金のあなたが本気になるなど、大人気ないじゃないですか」

「ホッ、友、遠方より来るか……」

「牡羊座のムウ、な…なぜおまえがこの五老峰に……」

普段ジャミールに引きこもったままほとんど姿を現さないムウが、今目の前にいることはにわかには信じがたい。マジで驚いた!

直近でも、ムウに会ったのは13年前か?

顔は既にうろ覚えだが、纏っている聖衣を見れば相手が誰だか判別できる。お互い成長したものだ。おっと、こんなところで感慨にふけっている場合ではない。

ムウは聖域からの招集に応じることはなかったが、裏でコソコソと仲間たちをサポートしてくれているのは知っていた。

聖域の召集に応じないその行動は叛逆とも言われていたが、仲間たちへのサポートは叛逆に値しない。ムウは何よりも唯一の聖衣の修復師であるから、とやかく言うことは出来ない。

「もちろん、決戦の時が来たということだ。聖域の教皇と、日本におられる女神とのな。さあ、どうするデスマスクよ。戦いの幕をおまえと私の一戦で開けるか?」

やはりムウは教皇が偽者であることを知っていた。だから聖域には来なかった。

ムウの言い方から、決戦の時が来たということを教皇に伝えろということを遠回しに伝えている。
いくら俺でも天秤座の老師と牡羊座のムウ、黄金聖闘士2人を相手にするほど愚かではない。ダメなら逃げ帰っても良いと教皇は言っていたから、ここはひとまず退散するとしよう。

教皇への報告

「教皇、五老峰に行ったところ、とんだ邪魔が入ってきたぜ。青銅聖闘士のガキが邪魔入って来るのは…、まあ織り込み済みだし、別に問題じゃないが、ムウが割り込んで来やがった」

「なにっ!ムウが!」

「ああ、あいつは間違いなくアテナ派だ。あいつがいよいよ動き出した。時が来たのかもな。どうするよ?」

「決まっている。なんとしてでも阻止する。あんな小娘に何が出来ると言うんだ?あんな小娘に地上を支配できるものか」

「そう来なくっちゃ。たかだか小娘一人と青銅聖闘士5人だ。俺たち黄金聖闘士を倒せるわけなんてない。安心しな、教皇」

誰の目から見ても、教皇は焦っていた。

俺と、アフロディーテとシュラの前では焦りを顕にする。他の者がいる時は、平静を装ってはいるが…。

それからしばらくして、城戸沙織から書状が届き、我ら黄金聖闘士全員に召集頑張りかかった。全員に召集がかかるなんて、何年ぶりのことだ?

シュラがあの時言った「だがアテナは必ずや甦ってこられるいつの日にか必ずこの聖域に…」という言葉を思い出した。

まさか……。

深く考えることはやめよう。力こそが正義。あの小娘に俺たちを倒すような力があるのなら、それこそ紛れもない正義だ。今はまだ認めることはできないけどよ。

俺たちは全員持ち場についた。

巨蟹宮の戦い

ムウと老師が動くのかどうか気にはなった。

ムウは、小娘が十二宮に到着する直前に十二宮入りした。ムウが十二宮に来るのは13年ぶりだ。五老峰であった時、今度ばかりはムウも聖域に来るであろうことは分かっていた。だがあいつが青銅のガキどもと一緒に十二宮を登ってくるとは考えにくい。

おそらく様子見だ。

青銅聖闘士たちの聖衣を修復し、何やら助言を与えているようだが、そんなことはどうでもいい。青銅聖闘士など、黄金聖闘士の足元にも及ばないのだから。

ムウが青銅聖闘士どもを素通りさせたのは当たり前だとして、金牛宮を突破し、双児宮の迷宮をも突破してくるとは、意外だった。

星矢と紫龍が巨蟹宮に来た。

「敵を追い詰める際に巻き添えになったガキが結構いたかもしれんが、これも悪を懲らしめるための些細なことだ。戦争でも、いちいち女子供を避けて爆弾を落としているわけでもあるまい。それと同じだ」

敵を倒すために周りを巻き込んでしまうことがあるのは、黄金聖闘士なら誰でも経験していること。ピンポイントで攻撃を与えることはできないのだ。そもそも音速や亜光速の拳なんて、周囲に衝撃波を撒き散らす。周りも無傷ではいられないのだ。

そんな簡単なこともわからないのかと、俺は半ば呆れていた。俺の積尸気冥界波は、黄金聖闘士の中でも比較的敵をピンポイントで狙いやすい技だと誇ってもいいくらいだ。

紫龍とは五老峰での因縁がある。星矢は先に進めて、紫龍と戦うことになった。

紫龍には、どういうわけか積尸気冥界波が効かず、生き返ったのは驚きだ。稀にこういうやつがいる。そういう時は、自ら積尸気に出向いて紫龍を仕留めるにほかない。それに…、時々俺を惑わせる鬱陶しい”気”を感じる。

本来ならこのような”気”なんて気にもとめないのだが、煩わしいことこの上ない。こうなったら自ら積尸気に赴き、紫龍にトドメを刺すほかあるまい。

積尸気

俺自身も積尸気に行った。

積尸気冥界波は魂を自分の意志とは関係なく無理やり積尸気に送り込むので、心身ともに受けるダメージはそれだけでも大きい。普通のものなら積尸気で生気はなくなり、死者たちの列に加わるのが、列に加わるほどのダメージにはなっていなかった。

積尸気で紫龍を見つけることは容易いこと。聖闘士であれば小宇宙で一発だ。

俺は紫龍を見つけ、足蹴にし、ぼろぼろになった紫龍を引きずって、黄泉比良坂へと向かった。黄泉比良坂の先は冥界。積尸気に来ると仮死状態になるのだが、黄泉比良坂へ落ちてしまえば確実に死人となる。

紫龍を黄泉比良坂に落とそうとした時、またしても俺を邪魔する”気”があった。そんな”気”など気にせずに紫龍を投げ込めばよかったのだが、どうしてもその気が癪に障る。鬱陶しい。気が散る。
紫龍を比良坂に落とす前に、その鬱陶しい気を先に対処することにした。

物理攻撃技よりも精神技を得意とする黄金聖闘士にとって、気の逆探知なんて朝飯前だ。ムウほどではないが、俺の念動力を舐めてもらっては困る。

「失せろ小娘!!」

これで煩わしいものは消え去った。さて、次は紫龍を…。

…!

「な…なにい。亡者も同然の紫龍から、黄金聖闘士をも凌ぐほどの小宇宙を感じるとは一体…」

背中に一筋に汗が流れるのを感じた。

こんどは、紫龍が一方的に俺を殴ってくる。青銅ごときにこの俺がここまで追い詰められるとは…。だがな、

「命など、塵芥と同じように次から次へとこの宇宙へ浮き出てくるものを…。女々しいやつよ」

この広大な宇宙にとっての命の一つや二つ、ただの塵の一つに過ぎぬこと。そんな塵一つにかまっていられるほど、俺は暇じゃないんだ。

聖衣の裏切り

紫龍が黄金聖闘士の域まで小宇宙を高めたところで、決定的な違いが一つある。それを忘れちゃいけないぜ。

「俺の肉体にどれだけ痣をつけようとも、決定的なダメージを与えることはできん。なぜなら俺が究極の聖衣を纏っているからだ」

そうだ、俺は黄金聖衣を纏う資格をもった黄金聖闘士だ。だから、こんな青銅のガキに負けるわけがないんだ。

俺を恨んで死んでいった亡者どもが俺にまとわりついてきたが、そんなものは俺の強さの証しであり、俺の正義の証明でもあるのだ。いつまでもこの入口でたむろなんかせずに、素直に黄泉比良坂へと落ちてしまえば、転生することができるのだ。

紫龍はギリギリのところで、黄泉比良坂の崖に食らいついて落ちておらず、よじ登ってきやがった。

だが、そんな消耗しきった体で俺に適うわけないんだ。とっとと落ちやがれ!

「さあ、亡者たちとともに落ちろ、紫龍ーーーっ!」

……っ!!

お、俺のフットパーツが外れたっ!どういうことだ!?

アームパーツまで…っ!

「おそらく黄金聖衣の意思だ!!」

「バ…バカな。俺は…俺は最強を誇る黄金の聖闘士だあーーーっ!!」

聖衣のすべてのパーツが俺の体を離れ、オブジェ形態へと変化した。

もはや混乱と動揺しかない。こんな信じられないことがあってたまるかってんだ!

だが聖衣が俺の体を離れていったことは紛れもない真実。冷酷非情な俺様がパニックに陥ってしまっているということにも混乱した。

俺は混乱していたが、丸裸になった俺と条件を合わせるために、紫龍が自ら自分の聖衣を脱ぎ捨てたことで、俺の頭は少しだけ冷静さを取り戻した。

「馬鹿め、おまえは俺を倒せる唯一のチャンスを無にしたのだそ!小宇宙の勝負なら、黄金聖闘士の俺のほうが遥かに上に決まっているだろうが!」

それに対し、紫龍はムウに小宇宙の真髄について教えてもらったという。今の黄金聖闘士たちは、小宇宙の真髄など師匠から特に教えてもらわなくてもいつの間にか身につけてしまっていたものだ。それをいまだに身につけることができていない青銅聖闘士に、この俺が負けるわけないんだ。
なのに、この紫龍の自信は一体どこからくるんだ?!

「だが、この俺が正義を守るために選ばれた真の聖闘士なら、悪を倒すため…、たとえ一瞬でも黄金聖闘士の域まで小宇宙が高められるはずだ!」

そう言って、紫龍が小宇宙を燃やしてきた。俺にも黄金聖闘士としての意地がある。俺も紫龍に呼応して小宇宙を燃やした。

お互い技を放った瞬間、俺は紫龍の背後に無数の龍の見てしまった。その龍に気を取られてしまったことが、一瞬のスキになってしまった。

俺は…、黄泉比良坂へと落ちていった。

黄泉比良坂に落ちていく時、「アテナは必ずや甦ってこられる。いつに日にか必ずこの聖域に…」と言ったシュラの言葉が再びこだました。

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コメント

コメント一覧 (11件)

  • 「力がなければ正義なんて貫けない。力がなければ弱き者を救えない。力こそが正義。」
    「俺の正義の証明でもあるのだ」
    — これはアフロであり、デスではありません。
    デスは力が正義であるとは決して考えません。

    ムウは精神技を持っていませんが、超能力は得意です。(jump remix)
    デスの一人称は「私」と「俺」を含みます。彼は自分自身「俺様」と呼ぶことはほとんどありません。

  • 「綺麗事ばかりの正義は正義ではなく、力を伴ってこそ正義となる。」
    「力を持っている方が正義である。」

    — これはアフロであり、デスではありません。
    デスは正義の概念が変わることを知っていました、そして正義を気にしませんでした、彼自身の利益だけを気にしました。

  • 「秩序を守るためには力が必要なのだ。力がなくては正義を貫くことはできない。ゆえに力こそが正義だ。これは俺の信念でもある。」
    これはアフロの信念でもある。
    –これはまだアフロであり、デスではありません。
    アフロはほとんど同じことを言った。 しかし、デスはそのような考慮を持っておらず、力や正義についても気にかけていません。
    デスは*利*のあるところへつく。

  • 「震えてはいるが、強い敵と戦うことにワクワクしている自分がいる。」
    デスは臆病な側面を持つ唯一の黄金の聖人かもしれません…
    根性がないこと、力量がないこと、彼は聖闘士よりも投機家に近い。

    「ムウが割り込んで来やがった」
    実際、デスは情報を打診する可能性が高いため、積尸気冥界波を長い間使用していません。(しかし、彼はムウをとても恐れて嫉妬しているようでした(本当に大人げない…))

    「深く考えることはやめよう。力こそが正義。あの小娘に俺たちを倒すような力があるのなら、それこそ紛れもない正義だ。」
    –これはまだアフロであり、デスではありません。
    デスは本当に力が正義だとは思っていません! デスは力が正義だとは思っていませんでした!!

    • デスはムウと童虎の考えていることがを知っている。情報を打診するためだったので、城戸沙織の側の詳細を知っていたので、彼は瞬間移動を通して戻った。

  • 「時々俺を惑わせる鬱陶しい”気”を感じる。」
    デスの神経質でパニックに陥りやすい性格を反映しています。

  • 将来の星矢がNDに現れることを考えると、比良坂に氷河が現れることも、デスが紫龍を欺くという幻術かもしれません。

  • デスとアイオロスはどちらも私を一人称として使っているので、より上位の教皇と話すとき、彼が俺を一人称として使うと考える理由はありません。

  • 「これは教皇にとって、俺たちは側近とも腹心とも言える立ち位置だ。」
    コスモスペシャルと小説を考えると、デスは教皇に唯一の側近とも腹心とも言える立ち位置。そしてデスは教皇がサガであることを知っています。他の二人は単に実行者と護衛です。

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